気付いたら、ガラパゴス諸島民。

前略 ガラパゴスバットフィッシュ様

あなたに恋をして追いかけていたら、人生が文字通り一変してしまいました。
夢も行動力もなかったインドアの極みだった私がガラパゴス諸島民になっていたのです。
あなたは私に付き纏われてほとほと迷惑しているかもしれませんが、今一度振り返ってあなたにこの経緯を伝えたいのです…。

ガラパゴスを目指したきっかけはどうぞこちらの2つの記事をご参照ください。

きっかけ

挫折

初めてガラパゴス諸島を訪れた、2013年の8月。


あなたに会うため、夢にまで見たガラパゴス諸島。
スペイン語がまだつたなかった私は、現地のダイビングセンターを訪れるとろくに挨拶をするでもなく開口一番どストレートに「バットフィッシュが見たいんです」と言い放ちました。
そのようなリクエストは滅多にないようで軽く引かれましたが、この直球な思いと願いは十分に伝わったようで、こちらがあまり語らずともスタッフはあなたの生息ポイントに潜る手配をしてくださり、ついにそのご尊顔を拝むことができたのです!
初めてのガラパゴスダイビング1本目で、もう夢を達成できたのですよ!
後から聞いたら実はこれはとても運がいいことで、バットフィッシュは潜れば必ず見られる魚では決してなく1ダイブで1バット見られればラッキーと現地ガイドは話しました。

それにしても、初めて海であなたを目にした時の興奮で全身をめぐった血流の速さときたら。
ウサイン・ボルトの全力疾走に匹敵するといっても過言ではありませんでした。
海の中で発見したあなたは「いた」というより、「佇んでいた」という表現がふさわしかったです。

初めて会ったガラパゴスバットフィッシュ

 ↑よく見ると、左の岩の上に青いウミウシがいますね。もしかしてご歓談中だったのでしょうか。

これで私の夢は叶った、しかし…

一度実際にあなたのご尊顔を眺められたらそれで夢の達成、つまりゴールだと私は当初から考えていました。
きっとそれで大いに満足し、その思い出を宝として胸にしまってその先を生きていけるのだと。
しかし、私は大変欲深い人間でした。
あなたがあまりにも不思議で魅力的で、もっともっと見たい、知りたいと思うようになってしまいました。

そう思わせたのはあなたのお郷の素晴らしさのせいでもあります。
一か月間滞在したガラパゴスは、人々は優しく景色は素晴らしく、野生生物と人間が見事に共存している、驚くべきところだったのです。
こんな素晴らしいあなたの故郷にまた戻ってきたい、そして再びあなたに会いたい。
私は完全に惚れ込んでしまいました。

帰国してから、あなたの故郷に何か携われないかとインターネットで検索し、ガラパゴス保全NPO法人である日本ガラパゴスの会(JAGA)に出会い、一員にして頂きました。
どこの馬の骨かも分からないただの学生(しかもバットフィッシュに鼻息を荒くしている)に突然メールを送りつけられましたのに、丁寧な返事を下さった事務局長には今も大変感謝しております。
そして翌年2014年の8月、学生最後の夏休みを利用し再び一ヶ月ガラパゴスへ行くことを決めた私は、JAGAの一員としてちょっとしたメッセンジャー任務を頼まれました。
JAGAが支援を行っている現地のチャールズ・ダーウィン研究所に赴き、所長とお会いすることになったのです。

それは、思いもよらない言葉だった。

予定通りチャールズ・ダーウィン研究所を訪れると、所長や秘書が私を出迎えてくれました。
そこでJAGAとしての任務を終えると、所長たちは
「せっかく来てくれたのだから、研究所内を案内するよ。どこか見たい部署はない?」
と私に聞いてくれました。
私は海洋生物研究者たちに是非ともあなたのことが聞きたかったので、Biomar(海洋生物部門)に訪問したいとお願いしました。

さっそく連れていって頂くと、海洋生物部門のスタッフの皆様は嫌な顔せず突然の訪問者を出迎えてくださいました。
挨拶もそこそこに、もう気持ちがうずうずしてたまらない私は
「私、ガラパゴスバットフィッシュが大好きなんです。こちらで研究はされていますか?」
と聞いてしまいました。
「…バットフィッシュ?」
反応は私の予想よりずっと薄く、むしろちょっと沈黙すら肌で感じ。
どうもこの研究所内においても、あなたの知名度は高くないようであるということは容易に悟ることができました。

そこで大人しくフェードアウトして他の話題に移るのが正しい大人の対応だったのですが、私はあなたへの恋心で胸いっぱいの脳内お花畑状態でございます。
気付けば私は海洋生物部門のプロ生物学者たち相手にあなたのことを熱弁していたのでした。
こんなに不思議で魅力的な生物なのに、いまだに生態がほとんど解明されていないばかりかその存在すらも知られていない。
是非どうにかガラパゴスバットフィッシュを研究し、その知名度を押し上げて下さらないかと。
すると、突然やってきてバットフィッシュの押し売りをしてきた謎の日本人に、海洋生物部門の長であるペラヨ氏はこう言ったのです。


「そんなに好きなら、うちでボランティアしなよ!」

…ほ!?

「こちらも色々事情があるから、バットフィッシュ単体での研究は難しいと思う。だけど、例えばクジラやジンベイザメの研究で船で海に出た帰りに、ついでにバットフィッシュのサンプルを採取するというやり方であれば実現できるかもしれないんだ。」

おおおおお…まことでござるか…!

予想だにしない急展開でございました。
これはもしや非常に都合の良い夢ではないのかと不安になってしまうほどでした。
今月次に船を出すスケジュールは…とその場でペラヨ氏はすぐ動こうとしてくれたのですが、あいにく私は帰国を翌週に控えており、大学の授業もまだ半年残っておりましたので

「大学を卒業したらボランティアに来ます!」
と、固い握手を交わしました。
メールアドレスを教えて頂き、改めてご連絡しますと幸せに浮かれながら立ち去りました。

急展開に浮かれながら帰国、しかし…

実は当時、ダーウィン研究所の昆虫部門にOさんという日本人女性のボランティアスタッフがいらっしゃり、JAGAメンバーの訪問ということで所長らと共に私を出迎えてくれていました。
海洋部門を訪問したまさにこの現場にも、彼女は同伴してくれていたのです。
「ボランティアにおいで」という言葉を頂き猛烈に舞い上がっていた私に「本当によかったね!」と喜んでくださったOさんにもお礼を告げ、ルンルンで帰国した私。
しかし、帰国してから冷静に考えてみると、あれはあくまでお世辞だったのではないかと思い直しました。

なぜなら私は生物学を学んですらいない。

チャールズ・ダーウィン研究所は世界中から生物学を専攻した人々がボランティアを志願する、非常に倍率の高い研究所です。
そんなところにただのバットフィッシュファンが入り込めるわけがないし…と現実に気付いてしまいました。
お世辞の言葉を本気にして、メールを送ったら迷惑だろうな。
でも、こんないち素人の私の熱意を笑うことなく聞いてくださって本当に嬉しかった。
そもそも、ダーウィン研究所の海洋生物部門の長と会って、話せただなんてそれだけで十分夢のようなことじゃないか!
そう考え気持ちを切り替えて大学の後期を迎えた頃。

「もう日本に着いたかな?ペラヨが、アキコからメールがまだ来ないんだけどって気にしてるよ。早く連絡してあげて。」

とメールが届きました。
それはOさんからでした。
いてもたってもいられなくなりました。

私は確かに生物学を学んでない素人だ。
だけど、いや、だからこそこの機会を絶対に逃したくない。

サンタ・クルス島 風景

そして私はガラパゴス諸島民になり、ダーウィン研究所に所属することを決める。

人生でまたとない大きな機会を頂いた私は、大学を卒業すると再びガラパゴス諸島に渡りました。
ダーウィン研究所に赴き、人事部の方に改めてことの経緯を説明しました。
「わかりました、ちょっと待ってね。」
と担当者が内線で電話をしたのち、

 

「今ね、ペラヨは研究で数か月アメリカに行っちゃってるの。ついでに、海洋生物部門にボランティアの空きも今無いんだって。ごめんなさいね。」

 

(^o^)

 

いや、もう私ガラパゴスに来ちゃいましたけど!
家族にも友人にも、長期で日本を離れるからって盛大に送り出して頂いちゃったんですけど!
どうしますの、これ!
こうして何もないままお国に帰るのか。
こんな時私が北島康介選手だったら、「康介さんを手ぶらで帰すわけにはいかない」って誰かが言って泳いでくれるのだろうか。

さようなら、さようならオリンピック…いや、ガラパゴス…。

しかし、私の人生を賭けた試合はここでは終わらなかったのです。
まさに、かの松田選手の如く、JAGA事務局長が私をサポートしてダーウィン研究所に掛け合って下さいました。
そして、「それならうちにおいでよ!」と言ってくださる方が現れました。
植物部門であるガラパゴス・ベルデ2050のプロジェクトの長、パトリシア・ハラミージョ女史でした。

「私、生物学も植物学も専攻していないけど、良いのですか?」
そう尋ねる私に
「もちろんよ、あなたはガラパゴスを愛しているのだから。」
そう言ってパトリシア女史はハグして下さいました。

予想外の展開で、運命的な生活がスタート

こうして私は、チャールズ・ダーウィン研究所のガラパゴス・ベルデ2050所属ボランティアスタッフとして、ガラパゴス諸島民生活を送ることになったのです。
正直、植物より動物が好きだった私は最初は戸惑いもありました。
しかし、この運命の采配には非常に感謝しています。
私の自然に対する意識が大きく変わりました。
できることならまた、ガラパゴス・ベルデ2050に戻りたいと思うくらい。
きっとあなたが、私にこの運命を授けてくれたんですね。

もちろん、研究の夢は叶いませんでしたがあなたへの愛は相変わらずだったことは言うまでもありません。
仕事のない週末に、あなたに会いに潜りにいきまくったことはご存知の通りで、あなたもうんざりしていたことでしょう。
このガラパゴス生活でのことや、ガラパゴス・ベルデ2050のことは、また改めて今後綴っていきたいと思います。

草々

《ガラパゴスバットフィッシュがどんな魚かはこちら!》

ABOUT GALAPAGOS BATFISH


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ABOUTこの記事をかいた人

ガラパゴスバットフィッシュ愛好家、NPO法人日本ガラパゴスの会スタッフ。たまたま本で見たガラパゴスバットフィッシュに大恋愛し、大学在学中に2度ガラパゴス諸島に渡航、バットフィッシュを観察。 卒業後は、ガラパゴス諸島のチャールズ・ダーウィン研究所のボランティアスタッフとして活動。およそ1年半をガラパゴス諸島及びエクアドル本土で生活した。現在、ガラパゴスバットフィッシュやガラパゴス諸島に関する寄稿、トーク、講演を行っている。