ガラパゴスバットフィッシュを研究できるとチャールズ・ダーウィン研究所にやってきたはずが、思いもよらない展開で植物部門のプロジェクト・ガラパゴス・ベルデ2050(以下GV2050)に所属することになったわたくし。
↓思いもよらなかった展開の全貌…。
いざ働き出す前に業務内容の詳細を送ってもらったメールを目を通したところ、このGV2050の主な活動内容は
「ガラパゴスの固有種、在来種の植物を保全」
「それらの植物の種を採取し、苗木になるまで育て、元の島に還し、経過観察を続ける」
ということでした。
そのため、私は両親や友人に「ガラパゴスの植林プロジェクトに入ることになった」と報告していました。
上司が口にしたのは意外な言葉
しかし、実際にGV2050で活動し始めてから、プロジェクトリーダーのパトリシア・ハラミージョ女史(以下パティ)がよく口にする言葉に気付くようになりました。
ダーウィン研究所にやって来た観光客や、フィールドワークに向かう道中で出会った人々から掛けられる
「立派なreforestar(植林)活動ですね。」
という声に対し、
「ありがとうございます、しかし私たちの活動はreforestar(植林)ではなく、restaurar(復元)なのです。」
と返事するパティの言葉。
そんないちいち訂正するまでのこと?と当初はぬぼっと考えていました。
しかし、毎日活動を続けていく中で、その真意が理解できるようになってきたのです。
“restaurar(復元)” という言葉に彼女がこだわった理由
ガラパゴス諸島の公用語であるスペイン語で
reforestarは「植林する」
restaurarは「以前の状態に戻す、復元する、復活させる」
という意味です。
ガラパゴス諸島は人間の入植や観光客の増加に伴い、外来種の動植物が到来し、固有・在来種の植物が脅かされてきました。
例えば、サウス・プラザ島では外来種のネズミが主な原因で自生していたうちの約7割のサボテンが失われました。
サンタ・クルス島では外来種であるブラックベリーの脅威により、固有種のスカレシア・アフィニス(scalesia affinis)という植物はわずか80個体ほどしか残っていません。
バルトラ島は、第2次世界大戦時に対日本軍を目的とした米軍の基地を置かれていた過去があり、その時代に焼かれた大地は現在不毛の地となっています。
プロジェクトGV2050の2050とは、西暦2050年のこと。
2050年までに、ガラパゴスの本来の生態系を復元するという目的のプロジェクトなのです。
ガラパゴスの生態系を長年見つめてきた研究者として、パティはこのプロジェクトに強い使命感を抱いていました。
そのため、このrestaurar(復元)という言葉にこだわり、伝えたかったのです。
GV2050の「生態系復元」の方法とは?
GV2050は各島に赴いてその島の固有・在来植物の種を採取し、研究所で苗木になるまで保護しながら大切に育て、その後元の島に還すという活動を行っています。
苗木はひとつひとつに個体識別番号を付け、還した位置の情報をGPSで登録し、還した後も1ヶ月に1度モニタリングに訪れ、生育状態を記録・観察します。
また、各島の固有生態系を尊重するのも重要なことです。
例えば、ガラパゴス諸島の固有の植物にスカレシアというキク科の植物がありますが、厳密にはスカレシアはscalesia affinisやscalesia crockeriなど10種類以上存在し、それぞれに異なる分布域があります。
ですから、スカレシアだと言ってサンタ・クルス島の種のスカレシアをバルトラ島に植えることはありません。
更に言えば、scalesia affinisはサンタ・クルス島のみでなくフロレアーナ島にも存在しますが、サンタ・クルス島のscalesia affinisをフロレアーナ島に植えることもありません。
同じ種と呼べるものでも、島によって独自の進化を遂げていたり、微妙な違いがあるケースも多く、また各島の本来の生態系を復元するという目的の下では、このような行為は相応しくないからです。
このような考え、今日本でも少しずつ認識されてきていますよね。
「国内外来種(日本国内の他地域から持ち込まれた種)」という言葉、聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。
ちなみに、「さっきからスカレシアスカレシアって、一体そのスカレシアってなんなんだ」と思われる方が多いと思うので、写真を貼っておきます。
スカレシアってこんな植物でございます。
↑サンタ・クルス島のスカレシア(scalesia affinis)
↑バルトラ島のスカレシア(scalesia crockeri)
写真を見比べて頂くと、同じスカレシアでも違いがありますよね!
さらっとさきほど述べてしまったので念のためもう一度申し上げますが、これキク科の植物です。
ざっくり申し上げれば、スーパーで売っているお刺身にそっと添えられているあのキクの親戚ですよ。
めっちゃ「木」ですよね?これヒナギクの仲間だって信じられます?
10mを超える大木になる種類もあるんですよ。
「植林」の言葉の先を考えてみよう
日本語では「苗木を植える」という行為は目的に関わらず全て「植林」とくくることが一般的なので、このreforestarとrestaurarの違いに重点を置くパティの言葉にどうもピンと来づらいものが我々にはあるかもしれません。
防風目的で木を植えることも、木材生産のために木を植えることも、環境保全として木を植えることも、私たちは「植林」と呼びます。
だからこそ、植林という字面だけ見て「いいことだなあ」と単に感心して終わるのではなく、それぞれの「植林」という言葉の裏に、そして先に何があるのか、そこまできちんと目を向けられたらいいですよね。
それぞれの「植林」に、それぞれのポリシーがあるのですから。
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