ガラパゴス諸島、チャールズ・ダーウィン研究所の仕事で最も大変だったこと

ガラパゴス諸島、チャールズ・ダーウィン研究所の仕事で最も大変だったこと アイキャッチ

チャールズ・ダーウィン研究所で過ごして一番ハードだったことはことは何?と聞かれることがあります。
私はこのダーウィン研究所の植物部門、プロジェクト・ガラパゴス・ベルデ2050(GV2050)に所属しボランティアしていました。
ここでの仕事は、ガラパゴス諸島各島の固有・在来植物の保全を通して本来の生態系を再生することです。

《ガラパゴス・ベルデ2050(GV2050)の詳しい内容はこちらの記事をどうぞ》

保全活動に興味がある人に考えてほしい、「植林」という言葉

保全活動はフィールドワークも多く、炎天下で無人島の道なき道を重い水タンクを持って進むという肉体労働もザラでした。
元々超絶文化系で体力の無い私には確かにハードでしたが、新鮮な経験で楽しいという印象の方が大きかったので、これはさほど大変ではありませんでした。

そんな私が一番大変だったことはこれです…つ、つらかった…。

それは無人島キャンプ任務における、あるルールの存在

フィールドワークは、時折宿泊を伴うものがあります。
それが他の有人島といった宿泊施設がある場所であれば適用されないのですが、無人島で野営する場合、ある厳しいルールを守らなくてはいけないのです。

ガラパゴスは各島に固有の生態系があるため、いかなる砂粒も種も虫も他島に進入させることは禁止です。
そのため、出発の48時間以上前に服も靴も食物も含めた全てのフィールドワークに持ち込む荷物を検疫にかけます。

フィールドワークから引き上げた日も同様です。
住んでいる島に帰ったら、自宅ではなく検疫室に直行。

晴れて荷物が自宅に持って帰れるのは48時間以上経ってからです。

そして、野菜や果物といった種を持つものは無人島に持ち込み禁止です。
うっかり落とした種が発芽する場合がありますからね。
卵も虫が入り込んでいる恐れがあるため禁止です。

というわけで、無人島滞在中の食事はひたすらクラッカー、パン、ツナ缶、米…といったものでございます。

ここまでは私も大丈夫だったんです。
無人島にお邪魔して野営するのですから、外来種を持ち込まないことは大前提ですもの。
私も予想がついていました。

ここからが大変だったんですよ!!

まさかそこまで徹底するとは!


無人島にはもちろんトイレはありませんよね。
そのため…オープンな大自然の中で各々実施しなければなりません。

この場合、排泄物にまで気を配る必要があるのです。
簡潔に申し上げますと、出発の72時間前からは種を持つ野菜・果物を食べることは禁止です。

もうお察しですよね…そう、排泄物から発芽してしまえばそれが立派な外来植物になってしまうのです!

つまり、無人島野営任務が3日間の場合、島滞在中の3日+出発前3日=6日間に及ぶ慢性的な野菜果物欠乏状態。
食べることが大好きで、野菜果物を愛する私にはこれが本当につらかったんです。

ガラパゴスに住んでいる間、私の朝食はバナナ、イチゴ、穀物シリアルを乗せたヨーグルトが定番でした。
それが、無人島への野営3日前からはヨーグルトだけに…さみしい…。
(穀物シリアルは加工品なので大丈夫ではあるのですが、万が一を考えて避けました)

好きで毎日欠かさず食べていた野菜スープも、食べることは禁止。
お肉やお魚はもちろん美味しいですが、付け合せにひとつの野菜もお皿に盛れないのが私は悲しくて悲しくて…。

たった数日間ではありましたが、この食生活がなかなか私には堪えました。
毎週土曜日に開かれる市場で一週間分の野菜と果物を買うのが習慣だったのですが、野営フィールドワークを控えた時にそこで購入したのはお米のみ。

ガラパゴス諸島、サンタ・クルス島の市場の一角

美味しそうな野菜や果物が沢山並んでいるのに買えない・食べられないことがすごく悲しかった私。
ずーんと暗い顔をして歩いていたようで、いつも果物を買うお店のおばさんに
「どうしたの?」
と心配され呼び止められてしまいました。

いつも沢山買い物をする私が少しのお米しか携えていない様子を見て、
「お金がないの?これをあげるから食べなさい」

とリンゴとオレンジを差し出してくださったのですが、超絶逆効果でございます。

うおぉぉぉぉぉ!!!
目の前にリンゴとオレンジが差し出されているのに!!!

私は今これを!!!
食べることが許されない!!!

思い出されるリンゴのやわらかな甘み!!!
オレンジのほのかな酸味が広がる豊かな果汁!!!

「今…果物と野菜…食べちゃいけないんです…」

と言い残し、絶望に満ちた顔で去っていった私のことをおばさんはすごく心配したそうです。
(翌週晴れてフィールドワークを終えて市場に買い物に行った時に言われてしまいました。)

苦しいのは買い物時にとどまりません。
外を歩いていてフィンチを見かければ

種を食べるフィンチ

「いいなぁ…フィンチ、植物の種食べてる…。」

と心底羨ましくなりましたし、

リクイグアナを見ると

サボテンを食べるリクイグアナ

「いいなぁ…サボテンの実、美味しそう…。」

と食べている様子をガン見してしまいました。
私、サボテン食べたことないんですけどね。

これが私にとっては一番つらかった

「ちょっと野菜・果物が食べられないくらいで大袈裟な」
と思う方も沢山いらっしゃるかと思います。
そんな方はご想像ください。
もしこれが野菜・果物ではなくあなたの大大大好物だったなら…?
なかなか堪えませんか?

私はまだ合計6日間の我慢だったので良い方です。
例えば、アホウドリ調査などでは15日間の無人島野営任務を遂行することがあります。
となると、合計18日間…3週間近く野菜・果物を食べられないのです。

チャールズ・ダーウィン研究所や、ガラパゴス国立公園管理局のスタッフたちはすごい!
と、この無人島野営経験を通して私は改めて尊敬したのでした。
食事制限も仕事のうち!生態系保全は大変なのです。

~このブログの著者の本『バットフィッシュ 世界一のなぞカワくん』(さくら舎)好評発売中!~


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ABOUTこの記事をかいた人

ガラパゴスバットフィッシュ愛好家、NPO法人日本ガラパゴスの会スタッフ。著書『バットフィッシュ 世界一のなぞカワくん― ガラパゴスの秘魚』(さくら舎) 。 たまたま本で見たガラパゴスバットフィッシュに大恋愛し、大学在学中に2度ガラパゴス諸島に渡航、バットフィッシュを観察。 卒業後は、ガラパゴス諸島のチャールズ・ダーウィン研究所のボランティアスタッフとして活動。およそ1年半をガラパゴス諸島及びエクアドル本土で生活した。現在、ガラパゴスバットフィッシュやガラパゴス諸島に関する寄稿、トーク、講演、メディア出演等を行っている。