南米エクアドル、鳥が集団自殺する湖とは

南米エクアドル、鳥が集団自殺する湖とは アイキャッチ

この地球には不可解なことが起こるということを、南米エクアドルで改めて実感した出来事があります。

ビザ更新の都合でガラパゴス諸島からエクアドル本土のミンドに移って手続きが終わるのを待っていた際、せっかくだからこの期間を利用してアラウシ(Alausí)という街まで旅行しようということになりました。
日取りを決め、アラウシの宿情報を調べていると一緒に旅行する友人が私に言いました。

「そういえば、聞いたことある?鳥が集団自殺する湖があるって。アラウシの近くにあるみたい。」

は?どんなご冗談?いくら私が外国人だからって、そんなことは鵜呑みにしないぞ。
と思わず笑ってしまいそうになったのですが、話を聞くにどうもそれは本当らしいのです。
鳥が集団自殺なんて信じられないと思いながらも超常現象じみた話に気になってしまい、旅の帰りに立ち寄ることにしたのでした。

観光を楽しんだ後、いよいよ湖へ

アラウシ観光を楽しんだあと、私たちは帰りがてら噂の湖を探すことにしました。
しかし、私たちの誰もその明確な場所や名称を知らなかったので、地元の方に聞きながら目指すことに。

「すみません、このあたりで鳥が集団自殺するという湖があるって聞いたのですが…」
と話し掛けると、地元の皆さんはすぐにピンとくるようで、
「オソゴチェ湖(Laguna de Ozogoche)のことね。あっちだよ。」
と教えてくださいました。

進む先々でご教示頂きながらその方面に車を走らせていくと、景色は都市からどんどん山道に変化していきます。
「すごいね、なんか本当にミステリアスな空気になってきた。」
そう会話していると、ついに大きな湖が見えてきました。

車を止めて、外に出ると空気はひんやりとしていました。
まずは全体を見下ろせる高台に登って、湖を一望しました。

ここがその湖か…なんて穏やかで静かな場所なんだろう。

噂の湖

辺りには人の気配はなく、かといって鳥たちが飛んでいる様子もありません。
なんだかまるで時間が止まっているかのような空気です。

しばし景色を眺めた後、高台から降りて湖を真上から眺めることにしました。

噂の湖②

穏やかな水面には水鳥の1羽さえ泳いでいません。
せめて魚はいるのだろうか?と目を凝らして水の中を覗いていると、突然後方から友人が大きな声を上げました。

「えっ!?アキコ!来て!」

その焦った声に驚き、急いで駆け寄ると


「ここ、全然オソゴチェ湖じゃない!ネグラ湖(laguna Negra)!」

ネグラ湖 Laguna Negra

ええええええええ!
ネ、ネグラ湖って、なにそれ!?初めて聞きましたよそんな名前の湖!

じゃあ今まで感じたミステリーな空気は一体なんだったんですか。
なんだか急に恥ずかしくなってきましたし、ネグラ湖にも申し訳なくなりました。
あらぬ期待をされながら近寄られてすごく戸惑いましたよね、きっと。

というわけでネグラ湖に一礼をし、オソゴチェ湖に向かうことに。
しかし不思議です、私たちは人々に伺った通りに車を走らせたつもりだったのですが…。

気を改めて向かおうとしたものの…

車に乗ってから
「もう湖の名前もわかったし、スマホの地図機能使って行こう。」
とグーグルマップを起動するも、なぜか間もなく強制終了されてしまいます。
何度も繰り返してやっとマップ機能がまともに立ち上がったと思いきや、「経路が見つかりません」との表示。

「この辺り山ばっかりだし電波が悪いのかも。また人に聞きながら行こうか。」
そう諦めて車を走らせると、山道にぽつんと一軒の食堂を見つけたので休憩がてら入ることにしました。

店主に
「オソゴチェ湖に行きたいのですがどう行けばいいのですか?」
と聞くと、彼は驚いた顔をして

「オソゴチェ湖?ここからは遠いよ。むしろそこを目指してどうやってネグラ湖に辿り着いたの?」

と私たちに逆に聞き返しました。
思わず黙ってしまいました。
私たちはただ普通に教わった通りに進んだつもりだったのに、不思議がられるほど見当違いの場所に辿り着いてしまったということに気付かされ、ショックを受けたのです。

騙された?
いや、でも進む先々で何人もの方に道を聞きながら来たのだから、その全員が全員揃って騙してくるとは思えない。
では聞き間違えたのか?でも道を聞いたその全ての度に?

沈黙の中運ばれてきたスープを飲んでいると、
「帰ろっか。もう帰り着く頃には夜になるだろうし。」
とひとりがつぶやきました。
その時、なんとなく皆同じ気持ちになっていたのだと思います。
誰も「なんで?行こうよ」とは言いませんでした。

その時窓の外で、羊たちが静かに家路に帰っていく様子が見えたことが、なんだかとても印象に残っています。

羊たち

私たちが行きたかったオソゴチェ湖とは

旅行から帰ってきて、改めてオゾゴチェ湖について調べることにしました。
どうしても鳥の集団自殺が単なる噂なのかどうかは知りたかったのです。

すると、なんと噂ではなくエクアドルでは新聞に載るほどの事実でございました。

この湖には毎年9月初旬になるとおよそ100羽もの鳥が飛来し、湖に飛び込んで死ぬのだそうです。

集団自殺が行われる時期はこの月に3回あるといいます。
1度目は9月8日~12日の間
2度目は9月15日~20日の間
3度目は9月25日~30日の間
この集団自殺は毎回30分にも満たない短い時間で一斉に行われ、時刻に規則性はないとのこと。
ただ、多くの場合彼らが身を投げるのは雪交じりの雨が降っている時。

死因は凍えるような冷水(オソゴチェ湖は標高3215m、平均気温が5~9℃という寒い場所にあります)に飛び込んだことによるショック死であるとのこと。

この鳥たちはアラスカから飛来していることがわかっています。
2000年にアメリカのコロラド大学が、渡り鳥がどこへ向かうのか調査のために鳥たちに足輪を付けたところ、この湖で見つかったことから判明したのだとか。
しかし、なぜ鳥たちがこのような集団死をするかの科学的解明はいまだ誰も成し遂げられていません。

この土地の先住民たちは先祖からこの湖を神聖なものだと教えられ、鳥たちは自らを生贄として捧げているのだと考えているのだそうです。
しかし近年はかつてよりその「生贄」の数は減少しているのだとか。
かつては鳥たちの亡骸を拾いにいった人々が、湖から去る際一人につき100~200羽も抱えるはめになっていたといいます。

本当にそんな超常現象があったなんて。
気軽に行こうとしてはいけない場所だったから近寄らせて頂けなかったのだろうか、とヒヤッとしましたが、調べてみると実際は「伝説を持つ湖」として日常的に観光客も受け入れているオープンな場所のようです。
先住民たちのフォルクローレ演奏が聞けたり、釣りもできるのだとか。

この湖自体もとてもミステリーなのですが、私個人としてはなぜ全く別のネグラ湖に辿り着いてしまったのかがいまだに不思議でなりません。
まさに狐に化かされたような経験…あれ、エクアドルに狐っているっけ?

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ABOUTこの記事をかいた人

ガラパゴスバットフィッシュ愛好家、NPO法人日本ガラパゴスの会スタッフ。著書『バットフィッシュ 世界一のなぞカワくん― ガラパゴスの秘魚』(さくら舎) 。 たまたま本で見たガラパゴスバットフィッシュに大恋愛し、大学在学中に2度ガラパゴス諸島に渡航、バットフィッシュを観察。 卒業後は、ガラパゴス諸島のチャールズ・ダーウィン研究所のボランティアスタッフとして活動。およそ1年半をガラパゴス諸島及びエクアドル本土で生活した。現在、ガラパゴスバットフィッシュやガラパゴス諸島に関する寄稿、トーク、講演、メディア出演等を行っている。