【すべては】水が怖い人間、荒療治でダイビングライセンスを取得【バットフィッシュのため】

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私は元々泳げないし、水が大の苦手です。

小学生の頃から学年トップクラスの泳げなさであり、泳げる子たちのさらなる育成に忙しい先生たちには授業中放っておかれるポジションでした。
だからプールは嫌いでしたし、マリンスポーツなんて一生やるつもりがありませんでした。

しかし、ある時出会ってしまったんですよ…私の運命を変えるお魚、ガラパゴスバットフィッシュに…。

《ガラパゴスバットフィッシュとの出会いについてはこちらをご覧ください》

きっかけ


この魚、世界中のどの水族館にもいないんです。
会うことができる唯一の方法は、ガラパゴス諸島へ行って海へ潜ること。
しかも生息エリアががっつり潜らないといけない水深なので、シュノーケリングでなくスキューバダイビング必須。

つまり、私はダイビングライセンスと称されるCカードを取得してダイバーにならなければいけませんでした。水がダメなのに。

無謀な挑戦の幕開け

どう考えても私がダイバーになるなんて絶対無理でした。想像しただけで溺れそうになりました。
だけどガラパゴスバットフィッシュはダイビングしないと謁見させてくださらないから…心を決め、ダイビングショップへ赴きライセンス取得講習を予約。

第1ステップである学科講習と筆記試験は問題なく通過しました。
ここまでは、泳げなくても水が苦手でもきちんと授業を受ければ突破できるものです。

その後、第2ステップであるプール実習からが大問題。
だっていよいよ水が発生するんです。

こんな深いプール見ただけで死にそう

プール実習の現場はいわゆる普通のプールではなく、スキューバダイビング講習用のプールのため、一番深いところで4mありました。
4mって何?どう足掻いても足が着かないですよ?こんなのあしながおじさんしか浸かれなくない?

恐怖で足が震えましたが、プール実習の序盤は足が着く水深のエリアで行うとのことでひとまずホッとしました。
しかしそれでも、第一関門は到来してしまいます。

泳がなければならない

このプール実習でクリアしなければならない項目のひとつに、「泳ぐこと」があったのです。
ここでの「泳ぐ」とは空気タンクもシュノーケルも用いず、文字通り普通の水泳です。

あぁ…そうですよね…とにかく泳がないと何も開幕しませんよね…。

私は泳ぐことの何がダメかというと、息継ぎができないんです。
息継ぎをしてみるともれなくお水も吸引しちゃう。

ですから、クロールだとか平泳ぎだとか、息継ぎを要するものは撃沈必須。
どうしようか考えた挙句、私はある点に希望を見出しました。
そう、「何泳ぎ」とは指定されていなかったのです…!


というわけで、仰向けにぷかっと浮き上がり、足をばたつかせ腕はぐるぐる回転させてみました。なんだかちょっとずつ前進しました。
おわかりいいただけただろうか。これは背泳ぎです。全然まっすぐに進んでないがね。
しばらくバッチャバッチャしぶきを上げていると、担当のインストラクターから「はいOK」と声がかかりました。
突破だ…突破できたぞ…!

インストラクターいわく、この試験項目を背泳ぎで突破した者はいまだかつて存在しなかったようですが、泳いだ事実に変わりはないのでまぁOKだそうです。
なんだか脱法的な手段となってしまいましたが、私は無事に第一関門を突破しました。

小賢しい手段はもう通用しない…死にかけたマスク脱着

さまざま実習項目が進み、いよいよタンクを背負って4mの深場へ潜行することとなりました。
嫌だなぁ、怖いなぁ。でもここに入らないとバットフィッシュへの道は開かないんだよなぁ。

ダイビングライセンス講習、この項目でつまづく方が多いそうです。
私も見事にどツボにハマりました。
悪名高きマスククリア、マスク脱着…。

マスククリアとは、装着した状態のダイビング用の水中メガネ(マスク)を少しだけ持ち上げて中に水を入れ、その後上を向きながら鼻息をふーーーっと吐くことで中に入れた水を自力で排出する行為。
例えばダイビング中にマスクが曇った時、マスククリアをすることで曇りを解消させることができます。

そしてマスク脱着とは、水中でマスクを完全に取り去り、再び装着し直した上でマスククリアする行為です。
要は、もしダイビング中にマスクが外れてしまう事態が起こった際の対処スキルをダイバーとして習得しておきなさいということです。

このマスク脱着は、このプール実習でもその先のステップの海洋実習でも行われる重要な試験項目。
というわけで泣く泣く実践する運びとなりました。

目をギュッとつむって恐る恐るマスクを外します。
私としては、水深4mまで沈む行為の時点で既に怖すぎてガタガタ震えてるんです。
それなのに、そこに着いて自らのこの手でマスクを取り払わなければならない。何が楽しくてそんなことするのか。私は鬼か。

そしてもう一度装着するためマスクを手に持ち直して…とやっている間に、不安からかどんどん苦しくなってきてしまいました。
その時、わずかに鼻から水を飲んでしまい。

だめだ!溺れる!

パニックに陥った私は試合を放棄して真上に緊急浮上。
私の腕を掴んで引き留めようとするインストラクターの手を、猛烈暴れ馬かの如く振り払い浮上します。さようなら理性。

水面から顔を出し呼吸を整えなんとか落ち着きましたが、トラウマとなってしまいこの日はもうマスク脱着に挑戦することができませんでした。
この状況を見て、プール実習が終わった後インストラクターは私にこう言いました。

「次のステップの海洋実習は実施します。だけど本当は、君はまだ海洋実習に連れ出せる段階じゃない。」

この言葉は私に重くのしかかりました。
現状ギリギリセーフどころかアウトという通告です。
しかしインストラクターは、「ガラパゴスバットフィッシュに会いたい」という私の無謀な夢を理解し、なんとかそれを実現させるためにと精一杯のサポートをし、チャンスを与えてくださった。

海洋実習は1週間後。
ここでマスク脱着ができなければ、私の夢は終わる。

どうやって克服すればいいのか

プール実習後、私は無い頭を必死に回転させました。
冷静に自分の失敗を分析してみると、

マスク脱着がなぜできないか→マスクを外した時に顔に水が当たるのが怖くて苦しい→その恐怖を和らげるには→もっと強烈な地獄を味わえばいい

という結論にたどり着きました。

地獄だ。地獄を探そう。
そして私はふたつのものを購入しました。
重曹とクエン酸です。

洗面器で作れる地獄

その晩、お風呂で洗面器に水を張りました。
そしてそこに重曹を投入し、かき混ぜます。
よく混ざったら、そこに今度はクエン酸を投入します。

すると目の前に、メントスにコーラを入れたように強烈な荒くれ炭酸噴水が発生します。

ここに、顔を、つっこむんです。

バッチバチに発泡する炭酸噴水の中に容赦なく顔をつっこみます。
痛いです。苦しいです。だけど決して顔はそらしません。まっすぐ地獄と向き合う。
なんならわざとこの屈強な炭酸泡を鼻の中につっこむ。

泡が鎮まるまでこの地獄に耐えます。
そして耐え抜いたあとの私のやり遂げた顔…炭酸効果で血行が良くなり茹でダコのように真っ赤です。

海洋実習までの1週間、私はお風呂で毎日この地獄に寄り添いました。
日に日に重曹とクエン酸の濃度を高め本番に向けてピーキングします。

そして迎えた海洋実習

伊豆の大瀬崎に向かう車の中で、不安と緊張に襲われながらも炭酸噴水地獄を思い出します。
「きっと大丈夫…私はあれを耐えてきたんだから。」
なんということでしょう。この頃には地獄はもはや私の心の拠り所となっていました。

そして海の中に潜行し海底で実践したマスク脱着。

驚くほど余裕。

だって、水が発泡しないんですよ?刺激がないんですよ?
海水ってなんてやわらかくマイルドなんだろう。

こうして私は見事海洋実習に合格し、ダイビングライセンスを取得したのでした。

この手段はどうも危険らしい

歴史的快挙を遂げた私は「これは素晴らしいメソッドを構築した」と興奮し、インストラクターや他のダイバーの方々にこの炭酸地獄療法を明かしていたのですが、

「危ないって。他の人におすすめできるものじゃない。」

とのこと。

まぁ確かに、洗面器がなんだかきれいになっちゃうほどの強炭酸なので肌が弱い人は荒れること必須ですし、どの重曹にもクエン酸にも「組み合わせて大発泡させてお使いください」とは書かれていないので、きっとこれはあまり良くないんだと思います。
しかし私はこれで克服することができました。
ブランク明けのダイビングの際は、今でも前夜にこれをやっています。安心するし、初心に帰れます。

迷えるダイビング挑戦者の皆さん、この炭酸荒療治は決しておすすめできませんが、地獄を味わうことで悩みを和らげるという考え方はありだと思います。
是非、心に響いた方はご自分なりのオリジナル地獄を作り出してみてください。

~このブログの著者の本『バットフィッシュ 世界一のなぞカワくん』(さくら舎)好評発売中!~


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ABOUTこの記事をかいた人

ガラパゴスバットフィッシュ愛好家、NPO法人日本ガラパゴスの会スタッフ。著書『バットフィッシュ 世界一のなぞカワくん― ガラパゴスの秘魚』(さくら舎) 。 たまたま本で見たガラパゴスバットフィッシュに大恋愛し、大学在学中に2度ガラパゴス諸島に渡航、バットフィッシュを観察。 卒業後は、ガラパゴス諸島のチャールズ・ダーウィン研究所のボランティアスタッフとして活動。およそ1年半をガラパゴス諸島及びエクアドル本土で生活した。現在、ガラパゴスバットフィッシュやガラパゴス諸島に関する寄稿、トーク、講演、メディア出演等を行っている。